SEASON1-8

株式会社 絵画保存研究所

Art Conservation Lab.

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更新日 2014-11-07 | 作成日 2008-04-01

SEASON1 第八回目 

美術品の劣化要因 

美術品の劣化要因には、作家の用いた素材や技法に起因する内的要因と周囲の環境に起因する外的要因があります。今回は外的要因を取り上げます。

光が美術品に当たると、顔料の褪色、メディウムの分解、ニスの黄変などが起こります。特に危険なのは紫外線(UV)と短波長の可視光(ブルー)です。太陽光には、晴天時で25%、曇りのときで10%の紫外線が含まれています。蛍光灯にも7%の紫外線が含まれています。
光の強さと照射時間の関係は、相互作用の法則で表されます。例えば、50ルクスで20時間光を照射した場合と、100ルクスで10時間光を照射した場合では、光の照射量は同じになります。
 
rekka01.jpg光による褪色。額の下にあった縁のみ黄色が残る。(クリックで拡大) 
 

湿度

物質は、水分を吸収すれば膨らみ、放出すれば縮みます。そのため、木材、紙、布等の吸湿性の素材、また、ほとんどの有機素材が湿度の変化に対して、寸法の変化という形で反応します。
特に、20%以上の急激な湿度の変化は、深刻な損傷の原因となります。また、数多くの異なった素材を含む作品ほど損傷も起き易いといえます。板や皮を素材に含む美術品は、特に湿度変化に対して敏感です。また、高湿度では金属に錆が発生し、低湿度では布や紙が脆くなることも知られています。
 

温度

展示室や収蔵庫は、18〜20℃±5℃が適温です。温度が上がると、化学的劣化が起こりやすくなります。また、ガラスやエナメル類は、温度変化が激しいとそれだけで壊れるので、注意が必要です。
 

大気汚染

大気汚染物質には、塵埃、新築コンクリートの建物内の空気、車の排気ガスや工場やビルからの排煙、海岸近くの塩などがあります。
紙や麻などの植物性の繊維や、絹、羊毛、皮、羊皮紙や膠などの動物性たんぱく質の劣化を促進し、金属が錆びる原因になります。絵具の変色が起きることもあります。
 

カビ・虫

カビにとっては、膠、油、麻布などで構成されている油彩画はまたとない栄養源です。湿度が60〜90%になると発芽します。
油彩画にカビが発生すると、絵具は変質し、油は分解します。カビの分泌液にはクエン酸、シュウ酸などの有機酸が含まれ、顔料と反応します。分解した絵具は、有機酸の塩となって結晶することもあります。また、カビの分泌液の中に色素がある場合は、キャンバスや紙などに赤、青、紫、黒などのしみができてしまいます。虫の害は、板絵や紙に発生する場合が多く見られます。
 
rekka02.jpg油彩画に発生したカビ、顕微鏡写真(クリックで拡大) 
rekka03.jpg油彩画に発生したカビ、培養後顕微鏡写真(クリックで拡大)