SEASON2-1

株式会社 絵画保存研究所

Art Conservation Lab.

| HOME | コレクター大学 SEASON2 | SEASON2 第一回目 |

更新日 2014-11-07 | 作成日 2008-04-01

SEASON2 第一回目

紙本美術品の状態

今回は、コレクター大学SEASON 2の初回になります。まず、紙本美術品を取り上げ、最初に紙本美術品の状態をご紹介します。

紙本美術品の劣化は、美術品を構成している素材に起因している場合とそれを取り巻く環境に原因がある場合に分けられます。

紙の劣化のメカニズム

紙の劣化のメカニズムは、多くの人が研究してきましたが、まだ完全に解明されたわけではありません。おそらく、紙の構成要素であるセルロースが酸を触媒として加水分解されるためであろうと思われています。結果として、紙は弱くなり、持ち上げただけで切れたりする様になります。酸性の高い紙ほど分解反応が起こりやすいといえます。また、酸化によっても紙は弱くなります。

素材に起因する劣化の原因

  • サイズに混入された明礬:紙の酸性化を促進する。
  • 塩素漂白剤:紙の脆弱化を促進する。
  • 鉄、タンニン、インク:含まれる硫酸が紙を劣化させる。
  • 油絵具:紙の酸化が促進される。

取り巻く環境にある劣化の原因

  • 光:日光、蛍光灯に含まれる紫外線は、エネルギーが高く材質を劣化、褪色させ、リグニンを黄変させる。赤外線は、輻射熱を出して紙を劣化させる。

25paper01.jpg光による紙の黄変(クリックで拡大)

  • 熱:高温は紙の劣化を促進する。
  • 湿度:高湿度は紙の加水分解を促進し、カビやしわを発生しやすくする。又、低湿度は紙を脆くし、描画材料層に亀裂や剥落を起こす。

25paper03.jpgしわ(クリックで拡大)

  • 大気汚染:硫黄酸化物、特に亜硫酸ガスは紙を黄化し弱くする。絵具にも変化をもたらす。ウルトラマリンブルーは白色化し、鉛白は黒変する。
  • 生物劣化:カビによる着色物(紫、黒、褐色など)や昆虫の分泌物による汚染、害虫による紙の損失などが起こる。

25paper02.jpgカビによるしみ(クリックで拡大)

災害による劣化

  • 火災や見学者のいたずらによるもの
  • 取り扱いの不注意によるもの

25paper04.jpg取扱不注意による折れ(クリックで拡大)

額装や収納の不備による劣化

  • 額装に用いるマット紙、テープ、糊が不適切なものである場合は、紙の劣化が促進される。酸性のマット紙、ベニヤ板のボード、セロハンテープ、ゴム糊の使用は中止すべきものである。

25paper05.jpgセロハンテープを使った額装例(クリックで拡大)