SEASON2-18

株式会社 絵画保存研究所

Art Conservation Lab.

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更新日 2014-11-07 | 作成日 2008-04-01

SEASON2 第十八回目

虫黴害とガス燻蒸

今回は、日本でよく見られる虫とカビの問題とガス燻蒸についてお話します。

虫の害は、板絵や紙に多く見られます。木材周辺に木の粉が見つかった場合は虫がいる証拠です。粉の色が明るい場合には最近食われたということで、粉の色は時間が経つと暗くなります。紙には、カビが成長した後に虫が発生することがあります。何層もの紙をかじり、4ヶ月近くも生きることもあります。その他、コンクリートさえもかじることができる害虫もいます。

虫害は、行き届いた掃除と湿度を低く保つことによってコントロールすることができます。食物、飲料、植物は、展示室、保管所、その近隣の部屋に入れてはなりません。

42kabi01.jpg油彩画に発生したカビ(顕微鏡写真)
カビに関しては、膠、油、麻布などで構成されている油彩画はまたとない栄養源で、湿度が70%以上になると発芽します。油彩画にカビが発生すると、絵具は変質し、油は分解します。カビの分泌液にはクエン酸、シュウ酸などの有機酸が含まれ、顔料と反応します。分解した絵具は、有機酸の塩となって結晶することもあります。また、カビの分泌液の中に色素がある場合は、キャンバスや紙などに赤、青、紫、黒などのしみができてしまいます。色素によってしみができてしまった場合は、除去することができません。
しかし、絵に安全で、持続的にカビの発生を抑える薬品はまだ見つかっていません。今のところ、湿度を調節してカビが生えないようにするのが最も安全な方法です。カビが生えないようにするには、風通しの良いところで、湿度50~60%で保管すると良いことが分かっています。RH70%以上になると、カビ発生の危険があります。湿度をモニターしながらコントロールする事によりカビの発生を防ぐことができます。
42kabi02.jpg紙に発生したカビによるしみ
繁殖中のカビがあったり、虫が発生した場合は、燻蒸を行います。燻蒸には、かつては酸化エチレンと臭化メチルの混合ガスが用いられていましたが、酸化エチレンは毒性が非常に強く、また、臭化メチルは硫黄結合を壊すという欠点があります。現在では、燻蒸庫での燻蒸には酸化プロピレンを主成分とするガスが用いられています。取扱は資格を持った専門家にまかされます。
42kabi03.jpg燻蒸庫
42kabi04.jpg燻蒸庫内部

ガンマ線によってカビなどを殺す方法は、ヨーロッパで用いられてきましたが、たんぱく質などの結合を壊してしまうので問題があります。壁画にバクテリアや藻類が発生した場合には、駆除に紫外線が用いられることもありました。

その他の方法としては、チャンバーの中にガスを充満させる方法があります。二酸化酸素を充満させるやり方は、酸ができてpHが危険な状態にまで下がる可能性があります。現在では、ガスとして窒素ガスやアルゴンガスが用いられています。チャンバーを作ってその中に美術品を入れるか、美術品をフィルムで覆うかして、中にガスを液体状態で注入します。熱をかけてガスを蒸発させ、酸素が殆どない環境を作った後、ガスをときどき注入しながら2~4週間放置します。定期的に二酸化炭素の濃度を測定し、微生物の呼吸をチェックします。窒素中では生き残れる微生物があり、また、アルゴンガスの方が速く効くのでアルゴンガスの方が良いとされています。しかし、毒性のあるガスを用いる方法に比べて期間がかかるのが難点です。