SEASON2-23

株式会社 絵画保存研究所

Art Conservation Lab.

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更新日 2014-11-07 | 作成日 2008-04-01

SEASON2 第二十三回目

美術品の梱包

今回は、美術品の輸送の際の梱包を、絵画を中心に取り上げます。

輸送前の状態調査が終わったら、まず、絵画の額にガラスが入っている場合、テープを貼ります。ガラスは、壊れると絵画に深刻な損傷を与えるので、輸送の際にはマスキングテープなどすぐに剥がせるタイプのテープを全面に貼る必要があります。マスキングテープは、ガラスの全面に、並行に、なるべく隙間なく貼っていきます。テープの端は、接着面の方に少し折り返しておくと剥がしやすくなります。剥がすときは、テープが貼ってある方向になるべく低く引っ張ってはがします。テープを上に引っ張るとガラスが割れる危険があるので注意が必要です。テープはアクリルガラスには貼りません。アクリルガラスにマスキングテープの跡が残ると取ることができないので、貼ってはいけません。
47packing04.jpgガラスにマスキングテープを貼る(途中)
47packing05.jpgガラスにマスキングテープを貼る(終了後)

次に、絵画をシートで包み、湿気や埃から絵を守るようにします。シートはぴんと張り、絵画の表面に接触しないようにします。絵画は画面を下にして梱包した方が良いとされています。何かが絵画や額から落ちた場合、下に落ちてとどまるからです。但し、運搬用の額に固定された絵画の場合は画面を上にします。開梱後は、ラッピング材料を点検し、何か絵から落ちたものが付着していないか確かめます。ラッピング材料は、運送箱の中に入れて取っておきます。
47packing03.jpg梱包の方法(額装絵画)

現代絵画には、額がなく、保護のためのニスも塗布されていない作品が多くあります。また、端にまで絵具が塗られているために、表のどの部分にも支えになるものを付けられないこともあります。裏から軽く触れただけで亀裂などの損傷が起きたり、埃、油分、指紋などにより表面の艶にむらが生じることも多く、一旦これらの症状が起これば修復が難しいことが殆どです。通常、現代絵画のためには運搬用の仮の額がつけられます。取り扱い者が細心の注意を払うことが大切です。

紙の作品の梱包は、基本的には絵画の場合と同じですが、複数の作品を一つの運送箱に入れるやり方もあります。紙の作品は、ヒンジが作品の上端に付けられていることが多いので、作品は、平らに、もしくはヒンジの向きになっていなければなりません。

作品は、クレートと呼ばれる運送箱に入れられることもあります。クレートは、汚れや水の侵入を防ぎ、ショックや振動を吸収し、内部の美術品を光による損傷から守り、内部の温湿度変化を軽減させ、外の有害物質から守るという物理的性質を備えていなければなりません。一般的には、外側に耐水性の材料、その内側に温湿度調節とショック吸収をし、空気の流通を防ぐための何層かの材料、そして美術品のまわりにはなるべく水分量を一定にするため、美術品内部の空気量を少なくできる材料が用いられています。また、移動の際の振動を軽減するために、絵画に裏ボードを取り付けたり、ケミライニングの処置を行ったりすることもあります。
47packing01.jpg運送箱の製作例
47packing02.jpg運送箱への納め方

国内移動のときは、本格的なクレートを用いない場合もあります。クッション材とポリエチレンシートを使う梱包方法(ソフトパッキング)は、安価で簡単であり、梱包に場所を取りません。この方法を用いるには、絵画は安定な状態で、額にしっかりと留められていなければなりません。絵画は積み重ねず、クレートに入れたものとは離して輸送します。クレートに入れた絵画が同じ車内にある場合には、クレートはしっかりと固定しなければなりません。